日本乳癌学会理事長 園尾博司
従来、日本乳癌検診学会(以下、乳癌検診学会)が主体となって我が国の乳がん検診を推進してきた。乳がんのスクリーニングの業務は乳癌検診学会が主導し、そこで要精査となった場合は精密検査実施機関で精査を受けることになる。精密検査の実施は、その後の治療を行う機関が行うことが望ましいので、乳腺専門医のいる日本乳癌学会(以下、乳癌学会)の認定施設が担当することが望ましい。
一方、2000年のマンモグラフィ併用乳がん検診の導入により、非触知の早期乳癌が多く発見されるようになったが、要精検となり癌が明らかな症例が精密検査実施機関で見逃される事態が起こっている。この事態を改善するには、乳癌のスクリーニングを主導している乳癌検診学会と乳癌の診断と治療を主導している乳癌学会が協力して、適正な精密検査を構築していく必要がある。そこで乳癌学会・乳癌検診学会合同委員会による「精密検査実施機関基準(案)」が作成された。この案が、日本乳癌検診学会理事会・評議員会(2008年12月)および日本乳癌学会理事会・定例総会(2009年7月2日)で承認された。
以下に乳がん検診精密検査実施機関基準(全文)を掲載する。
はじめに
乳がん検診の精密検査実施機関基準(以下、本基準)は、乳がん検診により要精査とされた者が精密検査実施機関における的確な診断を通じ、乳がんの早期発見と適切な治療を保証されることを目的として、日本乳癌学会と日本乳癌検診学会の共同により作成された。
本基準は、乳がん検診の精度管理の一環として、都道府県の生活習慣病検診等管理指導協議会、地域の乳がん検診精度管理委員会等により精密検査実施機関の認定基準として採用されることを目標とするものである。I.精密検査実施機関
マンモグラフィ併用乳がん検診精密検査実施機関は、マンモグラフィ検診、視触診による検診のいずれか、または両方で乳がんを否定できない(要精検)とされたものに対して下記の検査を行い、診断が行われる施設とする。1)問診・視触診
2)精検用乳房X線撮影
3)超音波検査
4)細胞診・組織診II.精密検査実施機関の基準
精密検査実施機関は次の基準を満たしていることが必要である。
1)精密検査実施機関には、日本乳癌学会の乳腺専門医(当面の間は認定医も可とする)が常勤し、以下の検査を行う、あるいは監督下に行うこと。
2)問診・視触診
乳腺疾患の診療に習熟した医師が行うこと、あるいは、その監督下に行われることが望ましい。
3)精検用乳房X線撮影
・乳房X線撮影装置が日本医学放射線学会の定める仕様基準を満たし、線量(3mGy以下)および画質基準を満たすこと。
・マンモグラフィ検診精度管理中央委員会の施設画像評価に合格していること。
・少なくとも2方向撮影・圧迫スポット撮影および拡大撮影が可能なこと。
・マンモグラフィに関する基本講習プログラムに準じた読影講習会を修了し、十分な読影能力を有する医師により読影されること。
・マンモグラフィ読影技術および精度管理に関する基本講習プログラムに準じた講習会を修了した診療放射線技師が撮影すること、あるいはその監督下に撮影されること。
4)乳房超音波検査
・超音波診断装置に適切な探触子を接続して使用すること。
・探触子は表在用(使用周波数10MHz程度、ただし、マニュラアレイ型探触子では7.5MHzも可、視野幅35mm以上)を用いること。
・乳房超音波検査に習熟した医師・臨床検査技師・診療放射線技師・看護師が検査を行うこと。
・乳腺疾患の超音波診断に習熟した医師が診断すること。
・画像および所見・診断を記録し、保管すること。
5)細胞診・組織診
・細胞診、針生検が可能であること。
・必要があれば外科的生検が可能であること。あるいは、外科的生検が可能な施設と連携できること。
・細胞診は細胞診専門医・細胞検査士(日本臨床細胞学会)により、組織診は病理専門医(日本病理学会)により行われること。
III.記録の整備と報告
・精密検査結果を速やかに検診実施機関に報告する。
・精密検査によりがんと診断された者については、確定診断の結果、治療の状況等について記録し保管する。
・また、がんが否定された者についてもその後の経過を把握し、追跡することのできる体制を検診機関と整備する。IV.精度管理
1)精密検査の結果を検診実施機関または市町村に報告する。
2)精密検査実施機関の担当者は、地域における精度管理委員会に定期的に参加する。
3)精密検査の適正化を図るため、精度管理委員会の求めに応じて細胞診、針生検および外科的生検の成績(生検施行率及びがんの割合等)を報告する。
4)精密検査を実施する医師・臨床検査技師・診療放射線技師・看護師はマンモグラフィ講習会および乳房超音波に関する講習会を受講していること。
5)その他、定期的なカンファレンス開催など、精度管理に関する事項が適切に実施できること。V.本基準の改定
本基準は適時見直されることが必要である。おわりに
以上、乳がん検診の「精密検査実施機関基準」を掲載した。乳腺専門医あるいは乳腺認定医が常勤していることという条件は厳しい地域があるが、岡山県、広島県などすでにこの基準を採用している自治体もみられる。今後、この基準を全国47都道府県に通知し、各自治体にはこの指針に沿うよう努力して頂き、誤診の悲劇を避け、より良い乳がん検診ができることを期待している。