
このたび、一般社団法人日本乳癌学会理事長を拝命いたしました大阪大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科学講座の島津研三でございます。
日本乳癌学会は来年、創立35周年という大きな節目を迎えます。今日の学会の発展は、歴代の役員をはじめ諸先輩方、そして全国の会員の皆様の長年にわたるご尽力の賜物です。私は、この35年間で築かれた確かな基盤を継承するとともに、その先の35年を見据えた「未来型学会」の実現を目指してまいります。新しい価値を創造し、患者さん、社会、そして会員の皆様にこれまで以上に貢献できる学会へと進化させることが、私に課せられた使命であると考えております。
乳癌は現在、日本人女性の9人に1人が罹患する疾患となり、年間罹患者数は10万人を超え、今後15年間で約14万人に達すると予測されています。また、40歳代後半にも罹患のピークがあることから、子育てや仕事を持つ世代に多く発症するという特徴があります。治療成績の向上はもちろんのこと、就労支援、妊孕性、整容性、心理社会的支援を含めた包括的な医療がこれまで以上に重要になっています。
一方で、欧米では乳癌死亡率が着実に減少しているのに対し、日本では十分な改善が得られているとは言えません。この現状を真摯に受け止め、日本乳癌学会は「乳癌死亡率の明らかな減少」を最も重要な使命として取り組んでまいります。その実現には、新しい治療法の開発だけではなく、質の高い検診体制の充実、均てん化された医療の提供、多職種によるチーム医療、患者支援、そして予防医学の推進が不可欠です。
乳癌診療は近年、かつてないスピードで進歩しています。外科領域ではラジオ波焼灼療法、内視鏡手術、ロボット支援手術など低侵襲治療の本格的な導入が目前であり、薬物療法では抗体薬物複合体(ADC)をはじめとする革新的治療薬が次々と実臨床へ導入されています。さらに遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)に対する診療体制も大きく発展してきました。
こうした医学の進歩を、地域や施設による格差なく全国の患者さんへ届けることが学会の大きな役割です。また、高度化する医療に対応するためには、医師だけでなく、看護師、薬剤師、放射線技師、臨床検査技師、遺伝カウンセラーなど多職種が力を合わせる質の高いチーム医療をさらに推進してまいります。
私は理事長として、特に次の5つを重点課題として取り組みます。
第一、患者さん中心の医療のさらなる充実
診療成績だけではなく、生活の質(QOL)、就労支援、アピアランスケア、妊孕性温存、サバイバーシップまで含めた総合的な支援を推進します。このような多方面からのサポートを患者さんの届けるために上述のチーム医療をさらに推進します。
第二、全国どこでも質の高い乳癌医療を受けられる体制の整備
地域格差の解消を目指し、診療ガイドラインや教育体制の充実を図ります。質の高い乳癌医療を将来にわたって維持・発展させるためには、専門医制度の充実が不可欠です。専門医制度を時代の変化に対応したものへ発展させるとともに、専門医のみならず若手医師やメディカルスタッフの教育をさらに充実させ、日本全国で均てん化された質の高い乳癌診療が提供できる体制を整備してまいります。
第三、日本から世界へ向けたエビデンスの発信
日本の高い診療レベルを生かし、アジア各国との連携をさらに深め、世界の乳癌医療を変える質の高い臨床研究や基礎研究を推進してまいります。主に外科治療を対象にした医師主導治験を立ち上げ、日本から新たなエビデンスを創出し、次世代の乳腺医療を切り拓いてまいります。
第四、次世代を担う人材育成
学生・研修医・若手医師・メディカルスタッフが乳腺診療の魅力を感じ、積極的に学会活動へ参加できる環境を整えます。自由な発想を尊重し、若い世代が活躍できる学会運営を進めてまいります。国際的に活躍できる人材の育成にむけて学術集会の英語化を促進します。
第五、関連学会との連携の強化
BRCA1/2病的バリアント保有者へのリスク低減手術や乳房再建、オンコプラスティックサージャリーなどについても、日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)や日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会と連携しながら、更なる普及と質の向上を目指してまいります。予防医学や画像診断の関係学会との連携も強化します。
日本乳癌学会には、日本のみならずアジア、世界の乳癌診療を変えるエビデンスを発信する役割が期待されています。その期待に応えるため、学術、教育、診療、国際交流のすべての分野で新たな価値を創造し、未来へ向けた挑戦を続けてまいります。その実現には理事・評議員だけではなく、全国の会員の皆様のお力が不可欠です。一人ひとりの知識や経験、情熱が学会の力となり、日本の乳癌医療をさらに発展させる原動力になると信じています。
皆様とともに、日本乳癌学会を患者さん、社会、そして会員から一層信頼される学会へ発展させ、次の時代の乳癌医療を切り拓いてまいりたいと考えております。
今後ともご指導、ご支援、ご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
