一般社団法人 日本乳癌学会

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市民のみなさまへ

ごあいさつ

最終更新日:2022年8月22日

この度、一般社団法人日本乳癌学会理事長を拝命しました京都大学乳腺外科の戸井雅和と申します。これまで歴代の素晴らしい理事長のリーダーシップのもとで多くのことが達成されてきました。それらの成果を引き継ぎ、日本乳癌学会のさらなる発展を推し進めたいと考えておりますので何卒よろしくお願い申し上げます。

これまで約35年間、乳がんの診療と研究、教育に携わってきました。広島でスタートし、九州、英国、東京そして現在は京都をベースに活動をしております。

乳がんは非常な勢いで現在も増え続けています。それが何に起因するのか、いまだに不明な部分が多くあります。乳がんが多かれ少なかれ女性ホルモンに依存することは疑いのないことであり、遺伝性の要素の強いがんであることも事実です。ライフスタイルががんの発症に関係することも多くの疫学研究が示すところですが、まだヒトの乳がんの発生や進展の詳細を把握するには至っておりません。従って、最新の考え方や技術等を用いてその様子を明らかにすることは、今後の乳がんという疾患へのアプローチ全般を考える上でも非常に重要であると思っています。また、乳がんに対する宿主の応答、特に免疫学的応答に関する分析が今活発に行われています。浸潤、転移のメカニズム、あるいは治療はなぜ効くのか、診断にはどのように反映されるのか、そして生存への貢献等、これまでよくわからなかった根源的な疑問に対する研究が大きく進みつつあります。

乳がんは確かにがんの中では比較的治りやすいがんであると言われます。診断、治療が進歩しており、新しい手法や考え方、最適化、標準化などにより治療成績は年々良くなってきています。しかしそれでも、現在の乳がんによる死亡者数は決して少なくはなく、早期発見が困難であったり、治療に抵抗性を示す乳がんもまだまだ多くあります。
従って、基礎的な研究への支援はもとより、早期発見の数、割合を増やし、画期的な診断法、治療法を開発し、治療成績を高め、再発を減らし、死亡を減ずること、さらに治療の際には整容性を維持、改善し、QOLの向上を図ることが求められています。様々な取り組みを、戦略性をもって、効率的かつ迅速に進めて行く必要があります。実地診療のデータを集積しビッグデータとして分析する、最新の手法を用いて解析する、それらの結果を実地の診療に速やかにフィードバックすることが重要ですし、整容性の高い外科的、形成外科的治療法を導入し広く展開することや薬物療法に伴う毒性を軽減し、治療前、中、後における精神的な面のケアを充実、強化することも喫緊の課題となっています。予防、診断から治療、ケア、フォローアップまで一貫した患者に寄り添うシステムを構築、整備し、survivorshipを支援する体制を作りたいと考えています。

分子生物学、分子遺伝学等の進歩により、乳がんの罹患リスクを評価することが可能になり、リスクの高い患者では予防的リスク低減も行われるようになりました。このように様々なリスクを推定し、治療効果や生存成績を予測、あるいは治療への忍容性を計量的に評価して、精密に治療、予防を行うことが、プレシジョンメディスンと言われるものですが、乳がんの診療においては実地で展開されています。乳がんはプレシジョンメディスンの進んだがんの例としてよく採り上げられます。先進的医療の精度をさらに高め、成績を上げるとともに、どこでもそのような医療が標準的に受けられるように、基盤整備を推進してまいりたいと考えております。

そのためには、専門性の高い医療者をより多く幅広い領域で育成、養成することが肝心です。また、医療連携ネット-ワークの整備や診療ガイドラインのさらなる高水準化も必要です。日本国全体で乳がん診療の質を高め、患者の満足度を向上したいと思っております。

わが国には独自に開発された乳がんの診断法、治療法が数多くあります。様々な優れた診療成績もあります。成果を的確に発信し、広く貢献することも大変重要であると考えており、発信力を高めたいと思います。一方、世界の先端と比べ、やや遅れをとっている点もあります。それらについては、なるべく早くキャッチアップし、改善したいと思います。

画期的な研究を支援し、高度先進的医療の導入を進め、先導的な人材、専門性の高い人材をより多く育成することは学会のミッション、タスクです。また、乳がん診療に関わる医療者が働きやすく、活動しやすい、希望やアイデアを自由に語り合える様な環境の整備も欠かすことができません。多くの課題はありますが、着実に進めて行きたいと考えておりますので、どうか、みなさまのご支援をいただきますよう、心よりよろしくお願いを申し上げます。

一般社団法人日本乳癌学会 理事長 戸井 雅和

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