一般社団法人 日本乳癌学会

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学会概要

乳房再建に関するワーキンググループ(2022年-2024年)

最終更新日:2024年10月29日

本ワーキンググループ(WG)設立の背景

 標準治療の多様化、高度化に伴い、患者さんの受けられる診療レベルが地域間、施設間で年々大きくなっている。そこで地域間および地域内での標準治療実施割合の異なる標準治療について、多くの乳癌患者さんに標準治療を受ける機会を失わないために、乳癌学会で取り組むことになった。このような地域間および地域内格差のある標準治療としては、遺伝医療、がんゲノム医療、乳房再建、一部の薬物療法などが挙げられる。この中で、乳癌に対する乳房全切除後の乳房再建率は、欧米や韓国(50%超)と比較して本邦で実施率は13%と低く、かつ、NDBオープンデータ(厚生労働省)などからも地域間での再建術実施の格差が大きいことが示されている。乳房全切除後の乳房再建術の普及および地域間および地域内格差の是正は、喫緊の課題である。本WGでは乳房全切除後の乳房再建をモデルケースとして取り組むこととした。

本WGの目的

 本WGの目的は、乳癌に対する乳房全切除術を受け、乳房再建の希望があるすべての患者さんに乳房再建術の機会を提供する。これを達成するために、本邦における乳房再建術の普及と地域間および地域内の乳房再建実施の格差を小さくするための方策を立案、提案し、実行する。

メンバー構成

 メンバー構成は乳腺外科医、形成外科医、放射線治療医、看護師、患者さんの代表者からなり、さらに性別、勤務地、本学会関連委員会も考慮し、幅広い人材によりWGメンバーを構成した。本学会委員会委員は本WGの主旨と関連の深いと思われる委員会よりWG委員を推薦いただいた。

メンバー:
山本豊(乳腺外科、理事、九州)
森弘樹(形成外科、理事、関東)
高田正泰(乳腺外科、総務委員、関西)
栗田智子(乳腺外科、広報・渉外委員、関東)
棚倉健太(形成外科、登録・データサイエンス委員、関東)
佐貫直子(放射線治療科、登録・データサイエンス委員、中部)
寺田かおり(乳腺外科、教育委員、東北)
大坪竜太(乳腺外科、地方活性化委員、九州)
桜井なおみ(患者さん代表、患者・市民参画委員、関東)
渡邊知映(看護師、特任理事、患者・市民参画委員、関東)
渡辺修(乳腺外科、地域医療・診療向上委員、関東)
阿部典恵(乳腺外科、地域医療・診療向上委員、九州)
矢島和宜(形成外科、北海道)
白石知大(形成外科、関東)
奥村誠子(形成外科、中部)
佐武利彦(形成外科、中部)
雑賀美帆(形成外科、中国・四国)
矢永博子(形成外科、九州)

活動方針の決定過程

 WGメンバーによるweb会議を用いて、共同座長からの活動方針の提案およびメンバーによるディスカッションによって活動方針を決定した。2023年2月16日に第1回Web会議を開催した。以下の活動方針ならびに現状の課題を抽出した。
1)活動方針

  1. 現状把握のための医療者を対象としたアンケート調査を実施する。
  2. 医療関係者への教育と啓発活動
    ① 地方会と連携したディスカッションを含む講演会を実施する。
    ② 「早期乳癌のオプションとしての乳房再建術の説明の要請」に関するステートメントを作成し、学会から会員向けに公表する。
  3. 患者さんへの啓発活動
    ① 乳癌治療の流れがわかるパンフレットの作成し配布する。初発乳癌患者のみでなく、乳癌検診施設にもパンフレットを配布し、検診者に見ていただけるようにする。
    ② ピンクリボン活動と連携して乳房再建の認知度向上の活動を実施する。
    ③患者さんの声を直接聴く機会を設ける。
  4. 均霑化のためのシステム作り、乳房再建のマッチング体制構築:各都道府県に数か所の拠点を置きマッチング体制を構築する。都道府県を超える単位での連携も模索する。

2)現状の課題

  1. 人的問題
    ① 医療者の偏在(乳腺外科、形成外科とも)
    ② 全体的なマンパワー不足
  2. 乳房再建術に対する乳癌診療上の優先順位
  3. 病院間連携上の問題
  4. 地域や医師毎の再建術に対する認識の違い
  5. 患者の理解

活動実施状況

  1. 現状把握のための医療者を対象としたアンケート調査(実施)
     2023年11月~2024年2月まで、本学会認定施設および関連施設の責任者宛てにアンケートを実施した(結果は別添1を参照)。本アンケート結果の主なlimitationとしては、回答率が低く(15%)、乳房再建に取り組んでいる施設からの回答が多く、乳房再建に対して肯定的な立場の医療機関からの回答となっている。また、施設単位のアンケートであり、主に施設の方針決定者の意見であり、個々の医師の意見の反映は少ない。
  2. 医療関係者への教育と啓発活動
    ① 地方会と連携したディスカッションを含む講演会(実施予定)
     2024年9月21日 中国・四国地方会
     2024年9月29日 九州地方会
     2025年3月1日   東北地方会
    ② 「早期乳癌のオプションとしての乳房再建術の説明の要請」に関するステートメントを作成し、学会から会員向けに公表する。(原案作成済み)
    本学会理事会審議・承認後、日本形成学会および日本オンコプラスティックサージャリー学会(JOPBS)での審議・承認を得て、三学会合同で本ステートメントを発出予定(別添2、資料として別添2として提出するが、三学会合同での発出後にHP掲載のこと)
  3. 患者さんへの啓発活動
    ③ 乳癌治療の流れがわかるパンフレットの作成し配布する。初発乳癌患者のみでなく、乳癌検診施設にもパンフレットを配布し、検診者に見ていただけるようにする。(計画中)
    ④ ピンクリボン活動と連携して乳房再建の認知度向上の活動を実施する。(計画中)
    ⑤ 患者さんの声を直接聴く機会を設ける。(計画中)
  4. 均霑化のためのシステム作り、乳房再建のマッチング体制構築:各都道府県に数か所の拠点を置きマッチング体制を構築する。都道府県を超える単位での連携も模索する。(地方会での議論を深め計画予定)

活動状況の検証方法

  1. 患者さんの乳房再建認知の向上:上記施策施行前と施策施行後のアンケート調査
  2. 各地域、各医療圏での乳房再建ネットワークの構築状況
  3. 上記施策施行後の乳房再建率の増加率で判断(NCD(全国乳癌登録データ)、NDBデータ、JOPBS登録データ等で検証)

今後の課題と将来展望:乳房再建を希望する患者さんに確実に再建の機会を届けるために

 先に実施したアンケート結果、ならびに2年間のWG活動を通じて以下のような課題とその対応が明らかとなった。

  1. 適切な情報提供:メリットとデメリットを患者さんに確実に理解していだけるような適切な情報提供が必要である。情報提供を通じて個々の患者さんの文化的背景や希望や考え方を変える意図はない。あくまでも中立な立場で情報提供を行い、患者さんの自己決定権の行使を支援する。媒体としては本学会、各医療機関のホームページ、コマーシャル、パンフレット等を用いる。
  2. 乳腺外科と形成外科の協働システム構築:院内で連携にとどまらず、各地域および各医療圏での連携(患者さんの紹介、形成外科の出向指導等)、再建実施施設での可能な再建方法や再建術までの待ち時間などの情報共有。
  3. 乳腺外科医による再建:乳腺外科医が形成外科医に頼らずエキスパンダー再建手術をすすめる。形成外科医から乳腺外科医への教育を推進。
  4. 乳房再建に関する集約化:専門施設への集約化、特に個々のニーズに応じた多彩な種類および高度な再建術の実施のためには集約化も必要。上記2.,3.の均霑化の方向に反するものではない。
  5. 人的補充:形成外科の常勤の施設を増やす。全体の乳房再建医の数を増やす。
  6. 技術改良:生体適合性のよいインプラントの開発や脂肪注入の普及。
  7. 技術面の向上:インプラントによる一次一期的乳房再建の普及。適切な皮弁作成などのテクニックの向上。合併症を抑制するための習熟した手術手技の実践。
  8. 保険適用の拡大:乳房再建方法には種々の方法があり、重要な形成外科手技(脂肪注入、被膜拘縮・破損によるインプラント入れ替え、対側乳房の縮小術など)に対して保険適用となっていないことで乳房再建をあきらめることがないようにする。
  9. 専門施設、専門医へのインセンティブ:専門技術提供への対価も必要。
  10. 一般の方への教育・啓発活動:がんになる以前の教育(学校・市民講座など)。
  11. 就業支援や子育て支援:壮年期の患者さんでは仕事や家庭で重要な役割があり、社会復帰を優先される傾向ある。
  12. 乳房再建に対する社会の理解:乳癌手術に対する勤務先の理解は得やすいが、乳房再建など形成外科的手術を受けるための休暇に対する理解が得られにくい風潮の改善が必要。
  13. 乳房再建データベースの充実:エキスパンダー/インプラントによる再建のデータベースは日本オンコプラスティックサージャリー学会に設置され運用されているが、その他の乳房再建に関するデータベースの整備状況は十分といえない。実施例の詳細をデータベース登録・解析し、その時代の問題点や課題を抽出し、乳腺外科医・形成外科医へ還元し、以後の改善の取り組みにつなげる必要がある。

 近い将来、上記の課題の多くが解決されることにより、乳房再建を希望する多くの患者さんが、それぞれ個人にあった再建方法ができるようになり、個々の乳癌サバイバーシップが充実したものとなることを信じて、今後も本活動を推進する予定である。

 


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